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京都地方裁判所 昭和47年(ソ)3号 決定

抗告人

吉村孫三郎

右代理人

原瓊城

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告の趣旨

原決定を取消す。

申請人山根益治、同吉田康雄と被申請人木村染工こと木村末男との間の京都簡易裁判所昭和四六年(ト)第一四八号動産仮処分命令事件について、右申請人両名は本案訴訟を提起しなければならない。

二抗告の理由

別紙抗告の理由のとおり

三当裁判所の判断

(一) 民事訴訟法第七四六条第一項所定の本案の起訴命令の申立権は、債権者代位権の目的となりうる権利であるか。

訴訟開始後、右訴訟を追行するための訴訟手続上の個々の権利(例えば、攻撃防禦方法の提出、上訴の提起、仮差押・仮処分決定に対する異議の申立)は、その権利の性質から考えて、右訴訟手続の主体である訴訟当事者、その訴訟承継人または訴訟参加人のみが、これを行使しうると解するのが相当である。しかし、民事訴訟法第七四六条(第七五六条により仮処分に準用)第一項所定の本案の起訴命令の申立権および同条第二項所定の起訴期間の徒過による仮差押・仮処分命令の取消申立権は、仮差押・仮処分命令申立に基づく訴訟を追行するための訴訟手続上の個々の権利ではない。起訴期間の徒過による仮差押・仮処分命令の取消申立権は、仮差押・仮処分命令申立に基づく訴訟手続とは別個の訴訟手続を開始させる権利であり、本案の起訴命令の申立権は、起訴期間の徒過による仮差押・仮処分命令の取消申立権の前提要件として認められた独立の権利である。したがつて、本案の起訴命令の申立権(起訴期間の徒過による仮差押・仮処分命令の取消申立権も同じ)は、債権者代位権の目的となりうる権利であると解するのが相当である。

(二)  抗告人の本件起訴命令の申立は、民法第四二三条所定の債権者代位権の要件を充足するか。

抗告人は、「抗告人は、本件建物の所有者であり、木村末男は、本件建物を不法占有しているので、抗告人は、木村末男に対し、本件建物明渡請求権を有し、木村末男に対し、本件建物退去の訴訟を京都地方裁判所に提起し、右訴訟は現に係属中である。山根益治、吉田康雄の両名は、本件建物内にある本件動産の共有権に基づき、木村末男を被申請人として、本件動産について、執行官保管の仮処分命令を得て、その執行をした。よつて、抗告人は、木村末男に対する本件建物明渡請求権を保全するため、木村末男に代位して、本件動産執行官保管の仮処分の本案の起訴命令の申立をする。」と主張する。

抗告人の右主張だけでは、抗告人の本件起訴命令の申立は、抗告人の木村末男に対する本件建物明渡請求権を保全するため必要であるとは認めえない。(本件動産執行官保管の仮処分が執行されていることは、抗告人が木村末男に対し本件建物明渡の強制執行をする妨げにならない。)

(三)  したがつて、抗告人の本件起訴命令の申立は、却下を免れない。

よつて、原決定は、結論において相当であり、その取消を求める本件抗告は、理由がないから、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(小西勝 工藤雅史 飯田敏彦)

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